鹿児島県出水市の漁港は10名程度の生産者しか居ない小さな海苔養殖場です。
海苔養殖で欠かせないとされている「酸処理」を行わず(酸処理とは、農業でいうところの「農薬散布」)、環境にやさしい昔ながらのやり方で養殖している、環境に配慮した海苔なのです。酸処理することで、海苔の病気の病原体の細菌や、他の藻類の繁殖を抑えたりする効果があり、生産者の手間が省かれ、生産効率は上がります。
一方、酸が海を汚染したり、海苔の風味が損なわれるといった弊害があると言われています。出水では自分達の海を汚すものは使わない、また自然に近い環境で育てることにこだわっています。出水は「いい水の湧く所」。背後の紫尾山と矢筈岳の広葉樹林の山からプランクトンの豊富な栄養たっぷりの水が福ノ江浜に注ぎ込まれる。海もきれいで600メートルの浅瀬が続く、海苔には理想的な浜である。
出水の漁師たちが無産処理にこだわるのは、海の汚染から浜を守りたいからだ。豊かな森が豊かな海を育てる。自然にゆだねたままで、手間を惜しまず海苔を作り続ける。手間をかければかけるほど子どもを育てている気持ちになるという。その思いは、この豊かな自然をそのまま後世に残さなければいけないという思いにつながっている。和紙を漉くように、均等の厚さに漉いた海苔を一枚一枚、摘んだその日に天日で約4時間ほど干して完成させる。
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【酸処理しない替わりに、太陽の光をしっかり浴びて育ちます】
海苔は海の中に潜っている時だけ成長します。こうやって干潮の時に
太陽を浴びて健康に育つ分、成長は遅くなり、酸処理した栽培と比べて
約半分の収穫量になります。それでも効率よりも、安心と味を追求して
昔ながらの栽培を行っています。
【元気な車エビと海苔の関係性】
昔、「もう大変だから、よそと同じように酸処理(海の農薬)をして海苔をつくろう」ということになって、酸処理をして海苔を作った年がありました。その年、車エビの漁師さんたちから「車エビが全滅してしまった」というクレームが入りました。それ以来、やっぱり「酸処理はこわいものだ」という強い認識をもち、海の農薬を使わない、昔ながらの栽培を続けています。いまではこのとおり、車エビも元気に育っています。今の日本では、無酸処理の海苔づくりはほとんどみることができなくなりました。
【マンガ美味しんぼで取り上げられた海苔です】
101巻「食の安全」で、わずか7人で、この福ノ江浜の伝統的な養殖を守る姿が取り上げられています。なぜ、1枚500円という高価な相場価格になるのか、その大変な努力が描かれています。
~豆知識「のりの酸処理とは?」~
■のりの酸性処理とは①「干出」
海苔網の酸処理は、「海の農薬」とも言われるものです。
自然の海苔は、干潮時に露出し、満潮時に海水をかぶる潮間帯の岩場などに生えます。
養殖の場合も、網を潮間帯の高さに張ります。
この干潮時の露出を「干出」といいます。
海苔は干出することによって、付着したバクテリアが死ぬので、病気にかかりにくくなります。
しかし、海苔は海水に使っているときに栄養分をとるので、干出時には成長が犠牲になります。
また、太陽や外気にさらされることによって赤っぽく色がさめます。
干出することによって海苔は海の戻した時に海中の養分を一気に得ようとするので味が良くなります。
しかし、この干出は、海の潮位にあわせて毎日網の高さを調節しなければなりません。
また、干出している間は、海苔は成長しないので、時間もかかり、色も赤っぽくなります。
■のりの酸処理とは②「酸処理」
そこで、干出の代わりに行われることになっていったのが、酸処理です。
海苔網を酸性処理剤によって酸処理するのです。
これによって、酸に弱いバクテリアを殺し病気を防ぐというものです。
海苔も酸性には弱いですが、バクテリアよりは強いので、海苔が死ぬ前に酸処理を切り上げれば、殺菌効果だけで済みます。
しかし、海苔は酸にさらされると、たんぱく質が溶け、硬くなります。
アサクサノリは酸に弱いので、この酸処理にも不向きで、食味は劣るが酸に強いスサビノリに取って代わられる一因ともなっています。
この酸処理に使われる酸性処理剤は、有機酸(クエン酸、リンゴ酸等)と無機酸(塩酸、硫酸、リン酸等)があります。
有機酸は使用後3日で海水のPHは元に戻りますが、無機酸は海底に沈殿し、そのまま残るといわれています。
水産庁の通達では、無機酸の使用を禁止し、使用済みの酸性処理剤は、陸上に持ち帰って中和処理することになっています。
しかし、無機酸は殺菌力が強く、安価であるため、公然の秘密として使用され、使用後は海に不法投棄されて、環境汚染の原因となっています。
最近の養殖などに重大な被害をもたらしているアオサ(酸性に強い)の異常発生の原因のひとつにも考えられています。
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鹿児島県出水の海苔は日本で唯一、湾全体として酸処理をしていない湾で
漁民の皆様がとても努力されてきました。以前この海苔、港を後世に残していかないといけないという使命の元、地元で働いていた谷口さんが一念発起して、漁民の皆様と一丸となって海苔の流通を始めました。(その前には、ヤマムロさん、北薩摩漁協の波戸理事長もがんばっていました)谷口さんは数年前、他界され、これからどうしたらいいかと迷走する時期もありましたが漁民のリーダーである島中さんのお嬢さんが帰郷し、その志を継いでくれることになりました。しかし、ここ数年でもう海苔はほとんど収穫しかできなくなりました。また、出水ではエビも九州随一を誇っていましたが、今ではとれなくなっています。言葉にならないほどの収入の激減が続いており、海の人なのに、少しでも足しになればと高齢ですが田んぼの耕作を始めてもいます。漁民は増えることなく極端な高齢化、このままでは、先が全く見えない状況ですが、灯を消さないようにと頑張ってくれているのです。
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